2020年、寺山修司命日に思い立って見る。




自殺、親捨て/子捨て、家出、どもり、戦争、性、孤独。
そしてボクサーと片目のトレーナーという「あしたのジョー」感、
(寺山修司は「あしたのジョー」の主題歌を作詞して、力石徹の告別式を演出した人です)

映画では俳優合わせで建二の役を韓国と日本のハーフ設定にしたそうだけど(原作は吃音と対人赤面症のみらしい)、その流暢でない日本語での試合中のモノローグが、吃音や方言のような異化効果になっていてよかった。

寺山さんが戯曲の台詞にウォーホルの言葉を引用するように、寺山さんの有名な台詞が引用されてたり、本歌取りの遣い手、寺山要素盛りだくさん。
アドリブらしき場面が結構あり、生っぽく見せてるところも寺山さんらしくていい効果。
主人公のリングネーム「新宿新次」。この名前の俳優さんが演劇実験室◎天井桟敷にいた。
小説は1966年に書かれていて、劇団の結成が1967年(昭和42年)元旦。
同年6月の天井桟敷新聞に、新宿新次さんの「芸名決定!」という記事が載ったそうだから(参照/https://ameblo.jp/tenjo7/entry-12549863007.html)、小説が先ということになる。
ボクサーっぽさがあって命名されたのかな?


映画の舞台は【2021年】の新宿。
寺山さん作品なのに私たちの生きる現代(2017年公開だからオリンピックが終わったあとの少し未来を想定している)で、小説は読んでいないが、自殺サークルはおそらく老人問題(「誰もわたしに話しかけてくれないという遺書を残して死ぬ老人」とか)を現代の問題に置き換えたんじゃないかな。YouTube生配信、ドローンやスマホ動画など、寺山さん生きてたらやるだろうねって事象を押さえてくれてて、幻の寺山さんの新作を見るような気持ち。

U-NEXTは6話構成の完全版で、第一話の後に見た「作・寺山修司」というテロップと、主人公ふたりが携帯で撮ったプライベート動画を見て、強くそう思った。


オープニングの新次(菅田将暉)が新宿の街を見ている空洞のような表情で世界に引き込まれる。
台詞のない部分の菅田くんの演技が効いている。新宿の路地の空気を纏っていた。

片目のユースケ・サンタマリアは、脱力感と諦念の裏にある熱さ、と、いろんな彼の持ち味が生きててはまっていた。

突然はさまる舞踏シーンは、大駱駝館だそうです。

[寺山修司]をやり過ぎず、だけど都合よく無碍にするのでなく、きちんと思考の流れを汲もうとしている良作。
寺山さんのことを知らなくても、いい映画だと感じると思う。