060611看板池袋のジュンク堂で6/11〜12/10の半年、「大江健三郎書店」が開催され、初日の11日は、講演会(既に締め切り済み)の一時間前からオープニングセレモニーがあり、大江さん自身もいらっしゃるとの情報を耳にする。
行こうかどうしようか悩んで、あちこちにそう言ったら「悩むんだったら、後悔するより行ったほうがいい」とみんなが背中を押してくれたので、行く気95%くらいで朝を迎える。
・・・朝を迎える?
興奮して眠れないのです(汗)
結局眠れたのが朝7時。セレモニーは14時から。お昼に起きられるだろうか?
お昼ごろ目覚ましで起きはしたものの、寝不足で顔がげっそりしている。
雨も降っている。初めて会うのがこんな日でいいのだろうか。そんな風にうだうだ悩んでいたら、床に置いたままの目覚まし時計が、「ぱたり」と前のめりに倒れた。触ってもないし、鳴ってもないし、地震でもないのに。
こりゃ行けってことなんだ。時計を倒したどなたかに感謝しつつ、出かける準備を始める。


10分前、ジュンク堂到着。日曜日のジュンク堂はなかなかの人出。こんなに期待いっぱいで会場に向かうのが照れくさくって、「知らないで偶然来た態」を装う。(なぜだろう?)「へえ、今日こんなのあるんだ」的に7階へ向かう。エスカレータをあがる人がみんな、目的が同じなんじゃないかと思える。

060611開店
現場には若者から大江さん世代のかたまで、老若男女のごたまぜの人だかりができていて、大江さんが座るであろう机と椅子を取り囲んでいる。雨なのと、ちょっと小走りにやってきたとでわたしは少し暑い。
オンタイムで副店長(その時わたしは「ジュンク堂の副店長」だと普通に思ったが、もしかしたら「大江健三郎書店」(店長は大江さん)の「副店長」の意味だったかな?)が大江さんを呼ぶ。
大江さんは(机と椅子があるのだが)本棚の影にひっそりと(いやむしろこっそりと)立ったまま(大江さんの書いた文章を紹介したりしている)副店長の挨拶を聞いている。改めて大江さんを紹介する副店長。満場の拍手。大江さんの挨拶(はっきり言ってわたしは超舞い上がっていたので、あんまりよくおぼえていない。ばかばか!)

簡単な挨拶のあと、テープカット。係のお姉さんがハサミと手袋を渡そうとして、手袋がうまく開かず難渋していると大江さんが「最近あった事件で、手袋をしていたっていうじゃないですか。それを思い出すから手袋はしなくていいですね」とおっしゃり、素手でハサミを持ち、ものすごいあっさりテープカット、おそらく「お願いします!」と言う予定だったであろう副店長をあたふたさせてました。
会場では、写真はおろか、ビデオをまわしている人までいたのだけれど、許可もなく写真を撮るのは(珍獣扱いみたいで)失礼ではないかとためらったが、これを逃したらこんな機会はこないかもしれないと、勝手にすみません、と思いながら何枚かの写真を撮った。遠慮がちなので小さいが、掲載しておきます。大江さんのほうはこういう状況には慣れているようで、意に介していない風であったのが救いであるが。

060611サイン中そのあと人々はが大江さんを囲んで質問攻め。30分程そんな状態のあと副店長の促しで、大江さんが「他の人のにはできないけど、僕の本にならサインします」とおっしゃって、サイン会=長蛇の列。お店側も慌てて「このあと講演会があるので、ここで締め切らせていただきます」と言ったのが私まででした。セーフ! !
こちらの名前入りで「○○様 大江健三郎」と書いてハンコ。お話しながらサインしていました。
お店に飾られたこれまでの作家さんの写真は大抵デニム地のエプロンをして店長らしくしているのですが、大江さんは私服のままでした。

大江さんが言ってたことを順不同に思い出すまま。
・書店名の横のハンコについて「これは最近、老年になって、もう読まないであろう本は引き取ってもらうようにしているのですが、その整理をしている時に出て来たんです。伊丹十三の(・・・一部聞き取れず)消しゴムで作ったハンコで、「HPS」とあるのはフランス語で「自由な人間」という意味の頭文字です(と言ってたと思う)。
・(自筆の書店名について)下手な字だとお思いでしょうが、これは書家の・・・(失念)の字を真似ているんです。
・皆さん自分の本棚を持った方がいいと思います。古典なんかは、自分では文庫版を持って、豪華版は図書館に置いてもらって、コピーを取るようにすればいい。図書館もちゃんとコピー代で経営していけはいいし・・・
・書き込みはした方がいい。赤線を引いたり、言葉を書いたり。書く時は丁寧に、きれいな字で書くこと。学生の頃、ものすごく美しい字で書き込みをする先輩がいて、いいなと思っていた。ずっと後年にそれを見る機会があり、よく読んだら内容全く無かった。ただ字が美しいだけで・・・
・「年を経て、カッとくる性質は変化しましたか?」「カッとしますね、それは変わらないし、変える気もないです。でもこのあいだ妻と息子と、息子はもう40になりましたが、居間で今後のことを改まって話したんです。『私は大江健三郎というものですが、これから晩年を迎えるにあたって、小説の書き方や仕事の仕方をこういう風に変えて行きたいと思っていますがどうでしょうか?』と言ったら息子が『♪どーでもいーいでーすよー』」
・「M/Tと森のフシギの物語」は自分にとっては重要な作品なんですが、絶版になってしまっている。(自分のでなくても)絶版になっているいい作品がたくさんあることは困る
・(「新しい人よめざめよ」にサインをしてもらったお客さんが)「嬉しいです、先生の作品の中で一番好きなので」「私もこの作品は好きです」


大江さんが講演に向かわれたあとゆっくりと見たのですが、棚ごとに大江さんのコメントが貼ってあり、楽しかったです。
店内に掲示されてる大江さんの店長挨拶と、置かれた本の一覧が、ジュンク堂のサイトにもう公表されています。
講演会は12月まで、毎月一回開かれるようす。

それから、現場でいただいたしおりに
「大江健三郎書店 支店のご案内」として
大阪本店 京都BAL店 大分店
福岡店 鹿児島店 三宮駅前店
とあるので、こちらにも同じものが並ぶのではないかと思われます。


大江さんのサインの順番を待つ列の最後尾で、私はいいたいことを整理してドキドキを抑え(ようとし)ながらまだお会計も済ませていない本を読んでいたのでした。黒柳徹子さんの舞台のパンフレットに「音楽・大江光」とあったのは光さんなのですか?
昭和さんの家でみたサイン色紙は三好達治の詩を引用してありましたが、いつもそういうスタイルなのですか?寺山さんから大江さんの小説の中から引用した文章がハガキに書かれて送られて来た話を読みましたが、寺山さんとは他にも交流があったのですか?などなど・・・
時間を短縮するために、サインされる人は自分の名を書いて待つ。私も白い紙をもらって、はたと気づく。
私は、なんてサインしてもらえばいいんだろう? 役者名? 本名? 戸籍の名前?
せっかく落ち着いたのにまた心臓がばくばく。
で結局・・・

060611サイン
大江さんに「お願いします」と紙と本を渡すと、大江さんが顔を上げて
「わたし、あなたにサインしたことありますか?」と笑顔を見せる。
「いえ、初めてです。この名前ご存知ですか?」
「はい」
「こもだ、と読みます。父が香川なので。私はずっと東京なのですが」
「松山のほうにも字は違いますがこもだ、という名前があるんです」
「狐みたいな字ですか?」
「古いに茂に田です」
「役者のときにはひらがなで出ているので、ひらがなにするか迷ったんですが、大江さんがこの字をどう書かれるのかがみたくってこれにしました」
「役者、女優さんですか」
「一緒に仕事をしている、天井桟敷にいた昭和精吾という俳優の家に、大江さんのサインがありました(と携帯の画像を見せる)」
「(見て)はい、これは私のサインです。よろしくお伝えください」
「サイン中にお話してすみません」
「いいえ」
「ありがとうございました」

こんな内容だったと思う。
思い描いていた像と相違のない、大江さんだった。