(着物については「tokimono13-2 銀座」として別に書いてます。そちらはまだ途中。この記事は美術展の話のみです。)



081019メサジェ


とき緒さんが行きたいと言う美術展「アネット・メサジェ 〜聖と俗の使者たち〜」を見に六本木の森美術館へ。とき緒さんもわたしもしばらく忙しくて、会うのは、とき緒さんがEgoistic Salonの公演を見に来た時にお茶して以来だから・・・ひと月以上ぶり。

待ち合わせはいつもよりぐっと遅く、午後3時。コーディネイトも前日に決まっているので余裕のお仕度(もちろん着物)。時間があったので(笑)久々髪もまとめてかんざしを挿す。


池袋から六本木に向かいながら、チューニングするような感じで近況報告をする。共通の友人のこと、ここ最近の日常のこと、着物のことなど・・・

入口すぐにとき緒さんがチラシを見て気になると言っていた作品が。

「彼らと私たち、私たちと彼ら」
天井から吊られたたくさんの止まり木に、鳥や小動物の剥製が鎮座している。止まり木の下は鏡面になっていて、見物人の顔が映る(でも床に並行なので、自分の顔を見るには真上を向かなければならず、つらい)。
最初は「わー、鳥がたくさんいる〜!」くらいの(むしろ微笑ましいくらいの)気持で見ていて、鳥の羽根のきれいさとか、毛皮の艶とか、尾長鶏の尾羽の見事さを楽しんでいたのだが、ニットの目出し帽的なものから嘴が飛び出している鳥の剥製をみて、おもしろいなと思ったと、ふと違和感を感じる。よく考えたら、これ大量の死体じゃないか? いや、作り物かも・・と展示解説の表示を確かめると「剥製」とはっきり書いてある。やっぱり本物なんだ。しかも、全員がぬいぐるみの顔を被って顔を隠している。さっき書いたようにニット(作者が編んだらしい)の嘴だけ飛び出すものをすっぽり被ったり、鳥なのにクマのぬいぐるみの頭を被ったり。きぐるみの頭だけ被ったような状態と言えばわかりやすいかしら。ちょっと異様な雰囲気。それでも鳥や毛皮みたさにしばらく行ったり来たりして見ていた。

「寄宿者たち」
となりの小部屋には、三つのショーケースがあり、すべて雀の剥製で、それぞれ「拷問」「休息」「歩行」という副題が。「休息」は淡い水色やピンクやレモンイエローといったベビーカラーのかわいらしいニットを着せられた雀たちが、蝶の標本のようにたくさん並んでいる。「拷問」はその名の通り、仰向けに台座に縛り付けられている。「歩行」は足の下にタイヤやらスキーやらを履かされて、ロボットのよう。
小さい頃、近所で巣から落ちた小雀を育てて、私が玄関を入ると部屋から迎えに飛んで来る(屋内で半放し飼いだった)ほど心を通わせたので、雀の死骸には特別な気持を持ってしまうせいか、すべてが拷問に思えた。
解説によると、小動物をかわいい服を着せて慈しむ気持と、相反して束縛しようとする気持とが交錯していることをあらわしているそうだ。


膨大な作品があったので書き出すとキリがない。
全体としては、剥製、ニット、布のヒトガタ(全身だったり部分だったり)布の動物、写真(+彩色)、光、風といった多様な素材で作られている。もっと正確に言えば、言語や糸や時間も素材になっている。

「カジノ」
動く作品(インスタレーション)で、「ピノキオ」にインスパイアされて作った作品でこれが金獅子賞受賞作。一番長い時間見ていたのはここで、初めは少し高みの通路から、そのあと下の椅子が空いたので作品と同じ地平から見た。赤い紗が風で揺れたり膨らんだりするのだが、紗の布の下に発光する海の生物が見えたり、呼吸とともに拡がる鯨の気道や、どくどくと流れて来る大量の血液、時には鯨の舌のようにも見えて、自分も飲み込まれてた気分だった。別の角度から見ると見えるものが違うので、時間さえ許せば長時間いても飽きないと思った。

ほかにも動く作品はあって、布で作られた動物や人間のぬいぐるみがワイヤーで引っ張られて様々な動きをする「つながったり分かれたり」は、一見ポップだけど、よく見れば瀕死の動物はいるわ、首輪で引きずり回されてる動物はいるわ、グロい。ヨーロッパで狂牛病が発生したことでできた作品だそうだ。
しばらく別の部屋にいて出て来たら、様相がまるで変わっていて、驚いた作品。近くにいた小学生が「これ意味わかんねー」とお父さんに言っていた。


最後のコーナーに、展示準備と作家インタビューの映像があった。
最初の「彼らと私たち、私たちと彼ら」について、「わたしたち人間も、普段は仮面(別の顔)を被るでしょ? 会社に行く時には別の仮面でしょ? それと同じことを動物もしているということ。動物達はなにか秘密の会議で集まっているけど、お互い顔を明かしたくない。だから別の動物の仮面を被っているの」と言っていた(原文ではなく、覚え書きです)。じゃあそれを下から覗いて鏡に顔を映してるのって・・・仮面舞踏会の野次馬みたいなもの? 動物園か。こっちが見てるつもりで柵の向こうから見られてる。

「死」の暗示に満ち満ちてる個展だけれど、作者は死を身近に感じているからこそこうやって作品にすることができるんだと思うし、ただ死を恐れるのじゃなく、日常の中にあるものとして扱う態度が、日本人の死生観に繋がるような気がする(着物の柄に骸骨使ったり、幽霊の絵飾ったり、怪談好きだったりする、あっけらかんとしたところ)。


結果的にはおもしろかったので、お時間あればどうぞ。11/3までです。
<森美術館サイト>

http://www.mori.art.museum/jp/index.html