世田谷パブリックシアターで『獅子虎傳阿吽堂 番外編 〜歌舞伎と日本舞踊の世界〜」を見た。

演目は以下の通り。

壱 歌舞伎音楽講座
弐 立ち役講座
参 日本舞踊講座
四 舞踊「浦島」



わたしと歌舞伎の最初のご縁は、はるか昔の『郡司かぶき 青森のキリスト』。
シアターカイで郡司正勝先生が演出した公演に、新宿オリヂン座(当時旗揚げから参加していた劇団)の役者5人、コロスとして出演。
舞踏の和栗由紀夫さん、女形の中村京蔵さん、立ち役の坂東みの虫(現・三津之助)さんらが出演していた。
和栗さんには舞踏ワークショップも体験させてもらい、舞踏との最初のご縁でもある。
とはいえ、その後は、歌舞伎好きなおじさまに誘われて『松禄襲名公演』を見たり、お友達の日舞師範若柳絵莉香先生の公演を見たりするくらいで、あまり歌舞伎や日舞とご縁もなく過ごしている(日舞を習うなら絵莉香先生に、と固く決めている。日舞をやろう!と思う日がまだ来ていない。理由はあるけどここでは割愛)。



で、今日の進行役の田中傳左衛門さん、傳次郎さん兄弟は、『青森のキリスト』に参加してた亀井広忠さんの弟さんたちなのだ。「青森のキリスト」は1995年なので亀井さんも20歳くらい(とはいえ初舞台7歳だからキャリアは十分)で、ご活躍なのは知ってるけど、いま目の前の弟さんたちが30過ぎてるってのは、なんか不思議な気分ではある。


2時間半に及ぶ盛りだくさんの内容で、とってもおもしろかった。
歌舞伎音楽講座では、最初に鼓の組み立てから見せてくれた。
そもそも鼓が、二枚の皮と本体部分とに分かれることすら知らないので、「人が手で叩く皮は9割馬の皮と言って間違いないです。0.3ミリほど・・紙、お札の厚さです」と解説しながら紐できゅきゅっと締め、「音を調整する為に湿り気を与えます」といいながら片側に手をあて、片側から息を吹き込むしぐさ(彼らからすれば普通のこと)が既に、おもしろい。
そのあと、笛、太鼓などを実際に叩きながらの解説、囃子方さん数人での実践(歌舞伎の情景描写としての音)を聞かせてくれた。こんなこと教えてくれる場ってなかなかないと思うから、たぶん今日見てなかったら、一生知らないで終わったんじゃないかな。自然描写の音なんて特に、気づくことはなかったと思う。

「お祭り」「お神楽」「遊郭」「雪おろし」「合戦」など・・・
「雪には音がないから、風の音なんです、だから『雪おろし』」。
太鼓をバチでやわらかく叩いてる、どどどう・・という音は言われてみれば確かに、年末恒例『忠臣蔵』の白い雪を思わせる。


立ち役講座では、市川段治郎さんと市川猿琉さんが実演。
みえの切り方や、歩き方、とんぼの切り方、立ち回りまで。
みえやとんぼにもたくさん種類があるんだってことも初めて知った。
段治郎さんは、立ち役の技での記録をたくさん持ってるかただというし、猿琉さんは歌舞伎界でSAAUKEに出るならこの人と言われてるくらい身体のキレるかたらしい。
そのおふたりが解説つきで実演してくれるのを間近で見れるなんて贅沢だこと!
しかもさっき聞いた囃子方+つけ打ち(わざわざ歌舞伎座から出張してくれたらしい)つきで、見所たくさんで忙しかった。

『青森のキリスト』はわたしもダンスを始めて、身体の使い方に興味を持ち始めた頃だった。坂東みの虫さんがとんぼを切るのも、「歌舞伎役者は柔軟体操しなくても、お風呂に入るくらいで、普段からいつでもとんぼ切れるくらいになってる」って話を聞いたのもその時だ。モダンダンスのアキコ・カンダ先生も、お稽古の前に準備体操なんかしないですっと踊り始めると聞いたことがあるから、日々訓練してる人はそうなのだろうと納得した。今日みたおふたりも(このあと出てらした日舞の尾上青楓さんも)、経験に裏打ちされた自信というか、立ち居振る舞いにそういうものを感じる。何度も繰り返しやって来たことだから、できない筈がない、というような。歌舞伎も日本舞踊もわたしには想像できないくらいの時間をそこに費やしてその積み重ねで今に至ってるわけで、それがプロなんだ、と改めて思う。
わたしから一番不思議なのは、板の上で足袋で、あんなにびしっと動けること。モダンダンスは裸足でするものなので、「フローリングの上で裸足」なら稽古してきた分は動きを制御できる気がするが、日常で着物で足袋履いてるときの板の間って、ふんばりが利かなくて、恐い。
特殊な足袋ってわけでもないだろうし、訓練の賜物なんだろう。
そもそも、ふんばってるように見えないし。たぶん、とんぼを切るにしても、自分の身体の中での作用として動いてるんだと思う。
みえを切ったあとの段治郎さんの息があがってるのもわかったし、ご本人も「止まってるように見えるでしょうけど、内ではものすごいエネルギーが回ってるんです」と言った。それは、ちょっとでも踊りや身体表現を真面目にやったことのある人にはわかるかもしれない。そうでなくても、ご見物のプロならわかるのかな。


休憩を挟んで、日本舞踊講座。
尾上青楓さんが扇子の使い方を解説してくれた。「要返し」という技を乞われてみせてくれたのだけど、見ていると非常に簡単そうだが、相当難しいものらしい。「難しいことを難しそうにやるのは、よろしくない。さも簡単そうに見せなければ」とのこと。今日のすべてに通じる。

そして舞踊「浦島」の実演。
先に「踊り手が、進行方向からふいと違う方を眺めたら、それはどこか(ここから遠い場所)、たとえばこれから向かう都であったり、離れてきた竜宮城であったりを思って見ているのだ、と思ってください」などとキモを教わっているので、格段に見易い。唄の言葉の端々も聞き取れれれば、なお内容が伝わって来るし。
この舞踊は、浦島が玉手箱と釣り竿を持って都に帰って来る場面から始まる。
釣り竿(当然、竹だけで糸はない)に巻き取ってある釣り糸をくるくると外して投げ、釣ってまた糸をくるくると巻き取る場面の手さばきが、ものすごくきれいだった。そのためには、竹のしなり具合もあれでなきゃダメだってくらいの、微妙なしなり具合になっているんだと知る。
当たり前なんだけど、最後に玉手箱を開けて、中から煙がもくもくもくと出て来て(実際には出ない、蓋をくるくると回すことで表現)、しばらくうずくまったあとの浦島は、見事に老人だった。さっきまでの若者らしい張りのある動きではなく・・・スピードもしぐさも、顔つきも、すべて老人のそれ。今日は素踊りなので、着物と袴姿で、化粧もかつらもなにもないのに、己の身体だけでこんなに変身できるんだ・・・と、感動した(感動したって久しぶりに使うけど、ほんとに)。


これ・・・読んでくれた人に伝わるかわからないけど、そんな興奮状態で終わった2時間半でした。
ほんと、おもしろかった。
機会があったらぜひまた見たい。
いい企画だった。
世田パブさんありがとう!!


後日なにげなくつけたテレビは時代劇専門チャンネルで、『連獅子』の場面だった。モーニングで連載中の『かぶく者』もちょうどいまその公演中の場面なのもあって、つい見てしまった。長谷川一夫特集で『獅子の座』という映画だったみたい。初・長谷川一夫体験でした。これでマスターの話にちょっとついて行けるようになるかしら?