これは昭和さん所蔵の、寺山さん直筆生原稿。『地獄より愛を込めて』の中の台詞らしい。

伝説の渋谷公会堂での『邪宗門』ラスト、「一九七〇年八月」の曲の中、役者が衣装を脱ぎ捨てて自分の言葉を話し出す名乗りのシーンで、昭和精吾が言う台詞もこれ。よく昭和さんの公演の暗転中にかける音源なので何度も聞いている。

「こもださんせっかくだからこれにします?」と石井さんが計らってくれて、わたしは『奴婢訓』でこの台詞を言うことになった。
その直前の昭和精吾公演のあと「重いからこもだ預かっといて」と昭和さんが言い、本番前にこれはわたしの家に来ることになった。替えのないものだから普段は大事に袋にしまってあるけど、本番中は棚に飾った。
百眼『奴婢訓』に於いて寺山さんの文字で自分の台詞を見ることのできた唯一の俳優。
そして光栄なことに、直筆原稿を見て台詞を言った歴代俳優の仲間入りをしたわけだ。
石井さんも、わたしが直筆原稿を昭和さんが所蔵しているのを知ってたわけじゃないし、昭和さんもわたしがこれを言うのを知ってた訳じゃないが、いろんな歯車が合っての出来事。

マッチが酸素不足でか、台詞中によく消えた。昭和さんとイッキさんが見に来た日は消えなかったかな。消えなかったのは全ステージ7回中2回くらい。
つけ直したり回りが助けるのは天井桟敷では邪道だったという噂も聞いていたが、台詞中に消えたらわたしは何本も擦った、仲間がくれる明かりにも喜んで当たった。それはここが天井桟敷ではなく、ただ天井桟敷の模倣がしたいのでもなく、わたしはその続きを生きていて、いま作っているのは現在の、廻天百眼の奴婢訓だったから。


石井さんは大入袋をくれるときに「名乗りがかっこよかったです」と言ってくれたが、こんなことが乗っかってたからね(笑)、いろいろ過剰になってたのきっと。
シーザーさんに会ったことすらなかった頃、「今日は昭和さんとシーザー来るよ」と聞いて力んで火吹き失敗したことがあった(しかも昭和さんは結局その回来てなかった)のを懐かしく思い出す。火吹きはその一回しか失敗しなかったんだから、ほんと、力みなんていい結果呼ばないよね。
その頃から少しは成長しただろうか。


退屈はねずみだ それを追いかける猫は想像力!