こもだまり体験レポート企画2つめ。
idenshi2021ws


第二回 講師:川瀬隆士
新潟県三条市出身。シテ方宝生流能楽師。宝生流20代宗家宝生和英、渡邊荀之助に師事。東京藝術大学邦楽科卒業後、宝生宗家の元で内弟子修行を積み、現在は独立し社中の会「賀隆会」を主宰し東京、新潟で指導もしている。主に東京、石川、新潟で舞台を勤め、能楽以外との合同作品にも多数出演し、伝統を重んじつつ文化芸能の道を歩む。



【能と私の関わりについて】
大学のクラスメイトに喜多流の能楽師がいたご縁で、能楽堂で能を見たり、薪能を見た経験あり。謡曲に影響を受けた戯曲を上演していたことや、三島由紀夫「近代能楽集」や人外役の出てくる作品を演じるにあたり、能の舞台装置や装束について調べたり、多少興味があり触れてはいる。

【川瀬氏とidenshi195の関わりについて】
2009〜2011年、宝生流宗家の個人の催しで高橋さんが能のあらすじ朗読用の脚本を書いた。
その縁から、2012〜2015年、同じく宝生流の催しとして、高橋が現代語で書いた朗読脚本「葵上」「船弁慶」等を劇場で上演。その際、宗家で修行をしていた川瀬さんが、出演者の着替えや道具の扱い、所作などを監修した。それらの脚本をidenshi195主催公演で再演するにあたっても、アフタートークゲストに呼ぶなどご縁が続いている。




[こもだまり WS体験レポート02]
2021.3.17

〜idenshi195 2021春のスペシャルワークショップ
「本来の声で空間を変える」〜
2、能とは、船弁慶とは / 講師:川瀬隆士(かわせ・たかし)



idenshi195川瀬隆士

この全7回のWS2日め。
手指消毒、検温、入室時のマスク交換、30分ごとの換気など、感染症対策を取りつつの会となる。

冒頭に、主催者の高橋郁子さんから、先日伝え忘れたんですが、と前置きがあって短いお話があった。
「3月10日は東京大空襲の日でした。」

WIPの課題作品「朗読・原爆詩集」には、冒頭で3月10日から8月6日までの日本で大空襲の日付を言っていく演出がある。今回その演出はやらないが、東京大空襲の日から8月6日に向けての日々を、それを意識して過ごしていくことで、(前回の講義の東野醒子さんの話に通じるが)想像力で当時に繋がれると思う、とのこと。


まずはWSの課題テキスト「船弁慶」冒頭8行の「定点観測」。前回同様、2行ずつ4人で読む。
これはWSの冒頭に毎回行い、講義を受けての変化を実感するために行う。

のち、「円になって8行を全員で読む」実験。合図なしに同時に読んで欲しいという。
idenshi195ではよくやるが「感覚で繋がる」訓練で、お互いの「いける」を読んでGOする。郁子さん曰く「集中力を外に向けて」。2回うまくいかず水入りがあるが、3回めで終わりまで。出過ぎてもダメだし待ち過ぎてもダメ、つまり発信だけでも受信だけでもダメ。私も円に参加したが私が出ちゃうのもなんだなと思って飽くまで受けに徹する。様子を伺って誰も声を発せないで長い時間が経った1回め、私の感覚だと5回くらい「ああもう行きたい」と感じた(せっかちすぎかな?そのタイミングがidenshi195的に正解だったかは不明)。
おそらく次の槙尾さんの即興やKouさんの身体トレーニングをしたあとなら、お互いをもう少しビビットに感じ合えるようになるだろう。


今回講師、川瀬さん登場。
ここにいらっしゃる時から着物と想像していたが、会場に45分前に現れた川瀬さんは、ジーンズに革ジャンというカジュアルなスタイルだった。(後半のツーショット参照)
講義は着替えて、着物に袴、白足袋、扇子で正座。
前回のように椅子を用意していたのだが、謡を体験するときには正座の方がやりやすいだろうという提案で、始まる前に椅子を片付けて、全員床に座しての講義となった。


高橋さんから紹介と、今日のプログラムを説明。
川瀬さんとidenshi195の関わりについて(前述)、また能の、内在する爆発的なエネルギーを抑制して行う表現方法や、音によって観客と想像力で繋がろうとする方法が、idenshi195の作品作りの考え方に繋がると説明。


「私は宝生流のシテ方(舞台上で物語のシテ=中心人物を演じる役割)と申し上げましたが、(シテ方の)能の流派は江戸時代までは四流一座、令和三年現在は観世・宝生・金剛・金春・喜多の五流です。」
私は砂々良で、大学で能サークルにいたお客様と雑学好きなマスターから何度も聞いているので知っていたが、能について考えたことがなければ確かに知らないことだ。

こもだ註:専門分野でシテ方・ワキ方・狂言方・囃子方と別れており、ワキ方の高安・福王・宝生、狂言方に和泉・大蔵など、合わせると二十四流あるようです。
能の歴史についてはこちら参照
https://tatsuki-lab.doshisha.ac.jp/Thesis2002/02_TOYOOKA.pdf



ここからはまたしても少し箇条書きで。

・他の古典芸能(日舞など)とは違って、能は勝手に師匠にはなれない
家元および太夫に弟子家が存在し、それがプロとして認められている
能楽は世界最古の芸能で、シェイクスピアより古い。650〜700年前の観阿弥世阿弥が能楽の礎を作った

・ざっくりいうと、能は悲劇、狂言は喜劇
狂言は市井の人々の生活の中で懸命に生きているのがどこか滑稽であるというもの
能は実在した登場人物も多く、人生での抗えない悲しさや怒りを舞と謡で表現するもの

・面(おもて)を実際に見せてもらう。視野がとても狭い
面の表情は俯くと悲しげ(曇る)、上げると明るくなる(照る)と角度で変わるため、つける人によって中に当て布をして角度を調整している。江戸時代のものが多いが、室町時代のものも現存する
芸はもちろん、道具(美術品、面や装束)を伝えるのも能楽師の役割
機織り機は戦前に技術が断絶したので、現在はフランスから輸入したジャガード機で用いて引き継いでいる

・コンダクターがいない芸能なので、お互いの気配を感じつつ演じる
周りと調子を合わせることが最も重要で「一調・二機・三声」とされる
こもだ註)世阿弥が「花鏡」に書いた、発声時の考え方。

(以下、観世寿夫「心より心に伝ふる花」より引用)
「一調・二機・三声」は世阿弥の発声についての基本的な考えをしめしたもの。
「一調・二機・三声」は、いちばん初めに、まず自分の中でこれから発する声の音高や音程、テンポといったものを体で捉え、二番目に、体の諸器官を準備し、息を充分に引いて整え、声を出す間をつかんで、三番目にはじめて声を出す、ということです。必ずどんな場合でも、発声する前にこれだけの
段階が自然にふまえなければならないというのです。これは喉だけの発声にならないための技術で、腹式呼吸を正しく使い、全身の共鳴を用いて発声するということに外ならないと思います。



この後、宝生流の舞台映像を見て「船弁慶」解説を聞く。
源義経と弁慶と静御前が出てくる90分ほどの大曲で、謀反の意ありと兄に追われた義経が都落ちする(船出する)前段、平知盛の亡霊が襲ってくる後段で構成されており、シテは前段で静御前として義経との別れの悲しみを演じ、後段で知盛の亡霊という真逆の性質の二役を演じる。
前後半の間20分ほどには幕間狂言があり、船頭役が出てくる。

地謡の並びは五人囃子の形で、楽器を持たず扇を持つ人が地謡。
下手から上手に順に楽器の高さが上がっていくように配置されている。
太鼓は人でないものが現れるときに鳴るので、この作品では後段の亡霊登場まで待つことになる。
装束の模様や面や所作の意味、シテ・ワキなどの説明、義経を敢えて子方(子役)にすることで夫婦の情を描きすぎない、などの工夫について聞く。

世阿弥は決めすぎない、描きすぎないことで、万人が自分の想像力で自分の思いを投影して見られるように作っているという。これはidenshi195の朗読や、舞台装置を使わず動かず語るだけの昭和精吾事務所の「李庚順」にも通じることだ。



宝生流能楽11月五雲会  岩船 放下僧 船弁慶
※ダイジェスト。船弁慶は1時間37分あたりから
https://youtu.be/cBUG7wh7ejY


一旦休憩を入れて後半、謡体験。
実際の謡本(うたいぼん)のコピーをいただく。
謡は叙情詩や叙事的な台詞(ナレーション)があるので、そこを演じすぎないなど、よく読み込んで作者の意図を理解して表現することが大切。
稽古は師匠とサシで、対面で一節ずつ「鸚鵡返し」することから始まり、大人になると本を見ながら止められるまで続けるようになる。

今回の謡体験は、謡本の記号の意味を理解し、見て奏でられることに重点があり、主に台詞の抑揚(音の上がり下がり、下の句は二音めが上がる、などのルール)と声の出し方についての体験だったので、スピード(テンポ)に関する指導は、役割の説明(「子方は調子を張ってハキハキと」「シテは重厚に」など)程度だった。
しかし台詞でない部分=地謡は一音ずつ、または子音と母音を分解して母音だけ独立してもう一回発音するなどの細かい指示がある。八拍構成で、楽器の演奏と密に作られているので、こちらはテンポについても細かいルールがあるかもしれない。


先週の講義で、高橋さんがidenshi195の「言葉の楽譜」について、楽譜として読み方を指定するのに「、」と「。」だけでは足りないので、独自の読点を使ったり、一音を1マス/一拍ではなく半拍でかぶせることもあるなど、こだわりを持って緻密に書かれたものであることなどを説明した。
一音を子音と母音に分解する発想は謡の方法からだろうか?
私が書く複数が声を重ねる台本も、楽譜のように重なるタイミングを指定していて、この音のここに被せて、という細かいこだわりがある。語りものを研究していくとそこに行き着くのだろうか?

idensi195_2
私が必死で抑揚のメモを取った、パニックぶりがわかる謡本。
今改めて見ると、ちょっと読めるようになっている!


その後、所作を少し習い、質疑応答コーナーを設け、終了。


そんな講義でした。あとは受講してのお楽しみ。
アーカイブでのオンライン見学はまだ受付中ですので、気になったらぜひご利用ください。

「謡は基本抑揚をつけない」という話が気になって、昭和精吾の語りも棒読みというか、イントネーション少なめなのが特徴なので、なぜそうなったんでしょう、と質問した。
簡単にいうと「それが面白いからそうなったんだと思います」との回答だった。

語りは声だけで伝えるもので、身体表現を削いでいるので、語り手が「何を」聞かせるかをより明確にする意識する必要がある。だからどちらかというと邪魔なものを減らすため、引き算としてそもそもを平板(イントネーションゼロ)にする。その上で聞きやすいための工夫として、上の句・下の句を分けるブレス位置を指定する、下の句の二つめの音を持ち上げるなどがそこに足していったのではないかと想像した。

謡体験は読んだことも勿論ですが、生で、近い距離でプロの声を感じられたことが貴重でした。
能楽堂や舞台では、こんなに近くで聞けないですもん。

そして何より伝統芸能といわれるものを背負っている川瀬さんの、「我々が伝えて、後世までこの文化を引き継いでいくんだ」という意志を感じられたことも大きかったです。

第二回、ありがとうございました。

idenshi195_2川瀬さんと
左より こもだまり(昭和精吾事務所)・川瀬隆士(宝生流シテ方 能楽師)


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まだ間に合う!
オンライン見学のお申込はこちら 
※ワークショップ全7回とワークインプログレスの稽古までが対象
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2021/3/10水〜4/25日 週1×7回
idenshi195 春のスペシャルワークショップ「本来の声で空間を変える」

idenshi2021ws

【講師】
東野醒子(俳優)
川瀬隆士(能楽師)
槙尾ユウスケ(俳優/インプロバイザー)
山下亜矢香(俳優/声優/ボイスチューナー)
Kou(役者専門パーソナルトレーナー)
高橋郁子



■配信内容■
・スペシャルワークショップ全7回分と、ワークインプログレス4/30、5/1、5/2合同稽古まで
(配信される組はA、Bいずれかです)

※ワークインプログレス本番(5/2夜)は別途チケットが必要 ※5/1情報公開します
※私はワークインプログレスにゲスト出演します
※ワークインプログレスとは、製作途中の作品のことを意味し、
WS終了後、受講者の数名と共に『朗読 原爆詩集』を作ります。

■配信期間■
・スペシャルワークショップ7回分:3/15(月)〜4/30(金)23:59
・ワークインプログレス稽古3回分 :5/3(月)〜5/11(火)23:59

https://idenshi195.com/workshop01/kengaku/

■費用(全10回/WIP本番は除く)
^貳漫12,800円(テキスト付)
一般:12,000円
2餔:10.800円(テキスト付)
げ餔:10,000円 

【注意事項】
・撮影・録音はかたくお断りいたします。
・映像は定点撮影・録音です。
・公演の配信映像等とは音質が異なります。(2021.03.15追記)