岡崎藝術座公演『三月の5日間』を見に新百合ケ丘へ。

この日は公演後、創さん(横田創)と演出の神里くんのアフタートークがあるというので、来週の上野公演ではなくこちらへ足をのばした。

岡田利規(チェルフィッチュ)の岸田戯曲賞受賞作だそうだけど、チェルフィッチュも見ていなければ岡田利規さんの小説も戯曲も読んだことがない。
ちなみに岡田さんは今年大江健三郎賞を受賞していて、受賞対談を講談社で行うにあたって、創さんがお知らせをくれたのだが、その日は舞台の稽古日で行けなかった。先日、NHKでもチェルフィッチュの舞台が放映されてそのあと大江さんと岡田さんの対談が流れたそうだが、その日は副都心線が遅れて間に合わなかった。
そんな、縁がない感じで知らない。


わたしはギリギリに席についたのだけど、スタッフによる客席の扉の閉じかたで予感した通り、役者がふらふらと自然なていで(自然を装うことってどうしてあんなに不自然に見えるんだろう、それが演劇なのかもしれないけど)客席通路を歩いて現れて、少し後ろを振り返ったりして(これも演出指示だったら相当うまい自然な不自然さの演出だ)観客に誰だかわからない人が誰かの話を語ると宣言するところから始まる。というか、「ていう話から始めようと思うんですけど」ばかりでなかなか「ていう話」に辿り着かない。変な戯曲。先に述べたように戯曲のことをまるで知らないので、どこまでが戯曲の範疇でどこからが神里くんの演出なのかわからないのだけど・・・とにかく、これにしばらく付き合うのか・・・と思うと若干気が重くなった。そのくらい、自然な「若者の」?会話を装った、不自然な台詞たち。というか、「台詞」自体がそもそも不自然なものだからなのかな?なんか気持悪かったのだけど、創さんがあれだけ薦めるんだから、きっと神里くんはなんかやらかしてくれると(会ってもないし顔も知らないのに)密かに期待して見続けた。

このあと上野公演があるので、あんまり詳しいことは書かないほうがいいか。
具体的には書かないことにしよう。


最初の二人組が出て来て、(当事者だったり、話を聞いている人だったり次々立場が入れ替わるので)やっぱり誰だかわからない二人が「誰々の話をしまーす」とコントのように話しだしてしばらくすると突然演劇らしい演劇のシーンになったりして、「きょどってる人」をきょどってる人として演じてたふたりはほんと気持悪くて上手だと思った(笑)その一人が自分の部屋に戻って一人の宇宙で一人で語るシーンは、1人になって誰だかはっきりしたせいかもしれないけど異質で、(創さんの読みによると「演出で岡田ワールドを跡形もなく崩壊させててスゴかった」そうで)いわゆる演劇的演技に飢えた時間(たぶん十数分)を過ごしていたわたしの喉を潤してくれた感じだった。これでしばらく見ていられるぞと。「こんなのもできるんじゃん」と。

この舞台には学生の頃のバイトで知り合った西田夏奈子ちゃんが出ていて、それは創さんからのお知らせで劇団のサイトを見て気づいたのだった。演劇やってるところも二回見ているし、彼女の演技を見たら、演出なり戯曲の意図も少し読めるかなーと期待しつつ。


戯曲なのか演出なのかわからないけど、日常の中で人がする癖を繰り返し繰り返しデフォルメしてやりながら台詞を澱みなくしゃべり続ける、そういうスタイルらしい。
「台詞を澱みなくしゃべるのを見る」のは、ただそれだけで案外楽しいもので、そんなこと言うと所詮体育会系の古い演劇好きだよと笑われるかな。
それでもいろいろ仕掛けを組み込んでくれていたので、翻弄されて楽しかった。
アフタートークで神里くんは「意図して前半後半で演出を変えた訳ではなく、一番しっくりくる形をそれぞれで選択したら結果的にそうなったというだけです」とクールに答えた。創さんはその答えに興奮して「ほらやっぱり、そういういい加減というか執着しない人が、演出をできるんだよ」と言った。
演劇で興奮した創さんは興奮したときいつもそうなるけど支離滅裂気味で(笑)、神里くんは創さんが称した通り「いじわる」で、司会役を務めた役者のひとりのお兄さんのおかげでアフタートークの体裁を保てたという感じだった。そうは言ったけど少なくともわたしにはおもしろかったので、いいトークだったんじゃないかしら。終わったあとロビーで会った創さんは「おおーまりさん・・・保も来てくれてたんだー」とまるで演劇の出演者のような感じでちょっと照れくさそうに、高揚しながらわたしたちを迎えた(のが面白かった)。出演者のみなさんが総じてクールというか、労働のあとの静かな高揚感なのに比べて、というのもある。
「創さんものすごく緊張してたね、話題がどんどん飛ぶし、また飛んでもいいやって感じでしゃべってるし、すごくこの戯曲に似てたよ」と言ったら「やっぱ影響されんだな、おもしろいね!」と言っていた。楽しそうだった。

そのあと打ち上げに参加させてもらって、西田夏奈子ちゃん含めた役者さんたちと飲んだのだけど、帰りに神里くんに「西田さんとは昔から知り合いで」と言ったら「はい聞いてました」。そんなことおくびにも出さないで・・・独特の時間空間感覚の人だなと思う。創さんが執着がないと言ったのがちょっとわかった気がした。上野に舞台を移したら、たぶん相当演出は変わるんだろうな・・・役者さんはそれを覚悟してる顔してた。そしてそれを楽しみにしてるふうでもあった。


今回の岡崎藝術座の公演チラシに寄せた創さんの文章(わたしの掲示板にも本人によって転載されたもの)をここにも転載しておきます。と思ったけど、やっぱり掲示板に書かれた全文を転載しておきます。


神里雄大の『三月の5日間』
投稿者:横田創 投稿日:2008年 7月16日(水)02時05分20秒  

かつて新宿オリヂン座の座付作家をしていた横田創です。ひさしぶりに「おもしろい!」と思える演劇家に出会いました。岡藝術座という劇団を主宰している神里雄大という演出家/作家です。彼の舞台を最初に観たのは高田馬場にある異邦人というちいさなバーで、そのバーのママを、そのバーで女優さんがひとりで演じるものでした。実際ママは二階の囲炉裏のようなテーブル席にいて、その舞台を書いて演出していた神里雄大と、まるで楽屋裏のように、たのしそうに、本当にたのしそうにふたりで聞き耳を立てて座っていました。その光景を、下の舞台と同時に、階段の途中に座っていたわたしは見ることができたのですが、それも彼の演出だったのではないかと思ったくらい、たのしかった。一時間ほどで上演が終わって、上から降りてきたママがそのままカウンターの中に入っていつもと同じように営業していたのですが、まさに第二部という感じで、彼女は何十年もそうして、この舞台でバーのママを演じてきたのがわかるというより心に染み通ってきて、ママに、いまママを演じ終えたばかりの若い女優さんが「ママ、あとビール三本」などとカウンター越しにやりとりをするのを、とてつもない僥倖として、まりさんの好きな大江健三郎の言葉でいえば「わたしがもう一度、生んであげるから、大丈夫」という演劇的な意志として眺めていたのでした。

(言うまでもなく「反復」とは単なる繰り返しではない。同時に取り返しでもあるような繰り返しである。初回があり、その二回目が初回を繰り返すのではない。「反復」する前に初回は存在しない。「反復」することによって初回が後方に存在するようになるのだ。……山城むつみ「追憶と反復 〜大江健三郎『取り換え子 チェンジリング』を読む」より)

その神里雄大の最新作が7月25日から新百合ヶ丘にある川崎市アーセンター アルテリオ小劇場で、8月3日から上野の広小路亭で上演されます。フライヤーの推薦文を書いた流れで、アフタートークなるものにわたしも参加します。詳しくは、下記の情報、もしくは劇団のweb siteで。



かたち、と言ってもいいし、形式、スタイルと言ってもいい。神里雄大は、あるひとつの限界を舞台に与える。もちろんそれはフィクションであり、演出家の思いつきに過ぎないのだけれど、舞台の上で、いまここで演じる俳優のみならず、すでに書かれていたものであるはずの戯曲の言葉でさえも悶え苦しむほどの内的な必然性がそこにはあるのだ。

要するに、神里雄大は意地悪である。もちろんそれ相応の覚悟が彼にはあって、彼の演出はなにものにもおもねらない。普段はへらへら笑って、おもねまくったふりをしているけど、権威のあるものになればなるほど馬鹿にせずにはおれない彼の性向は必然的に権威あるものたち(たとえば、シェークスピア、鈴木忠志、坂口安吾、自分を魅了してやまないバーのママ、自分? 英語が堪能なひとたち、当世風のひとたち、ある世代のひとたち、要するに、それっぽいひとたち)へと向かう。けど、殺しはしない、生殺しにする。

そして彼の構成する意志に抵抗してくる様を眺める、安吾の「桜の森の満開の下」の首が大好きなお姫様のように、惜しみなくすべてのものの主体を奪う。わたしはそれを愛と呼ばずにおれないのだけれど。(横田創/作家)

第49回岸田國士戯曲賞受賞作
「三月の5日間」
作:岡田利規(チェルフィッチュ)
構成台本・演出:神里雄大

▽2008年7月25日(金)〜7月27日(日) 新百合ヶ丘公演 @ 川崎市アーセンター アルテリオ小劇場
▽2008年8月3日(日)〜8月5日(火)   上野公演 @ お江戸上野広小路亭

出演:冨川純一 西田夏奈子  武谷公雄(バングラッシー) 砂生雅美 佐々木透  宇田川千珠子(青年団) 影山直文 中村早香(ひょっとこ乱舞)  尾原仁士  春日井一平(劇団上田) タカハシカナコ(劇団井手食堂)
照明:高橋かおり(Hikari Honpo) 制作:elegirl label  制作協力:野村政之 助手:鈴木啓史 企画制作:岡崎藝術座

▽アフタートークがあります。
7/25(金)19:30 柴幸男氏(青年団/toi)
7/26(土)18:00 横田創氏(作家)
7/27(日)15:00 岡田利規氏(チェルフィッチュ)

岡崎藝術座 公式web site
http://okazaki.nobody.jp/next.htm