角田光代さんの『キッドナップ・ツアー』を読んだ。
初・角田さん。
(面識ないかたに角田さん、というのも変なのだが、ゆりさんがそう呼ぶのでそれに倣っている)

初めて読むなら何がいいですか?とゆりさんに聞いたらこれを勧められた。

親子のお話だけど、親子の情を強調した暑苦しいところはなく、でも家族について考えさせられる。
夏休みという設定もいい。小学生の頃の夏休みって、長い時間の、非日常って感じしたもん。
詳しい環境がぐじぐじ説明されない潔さもいい。
飽くまで語り手のハル(小学校5年生の女の子)の感覚なのだ。

中盤の、テントから星空を見上げているシーンが好き。

 ふと、自分の体が軽くなって、そのまま浮きあがり、話し合うように点滅する星の合間にふわり、と浮いているような感じがした。となりで寝ているおとうさんも、やっぱりそんなふうに、ふわりふわりと浮かんでいびきをかいているようだった。山の向こうの、ずっと遠くに、おかあさんも浮いている、ゆうこちゃんもあさこちゃんも、ゆうこちゃんの恋人も、それぞれの場所で、星に引っぱられるようにふわりと浮かんでいる。反対側には寺のおばあさんも、つるつる頭のおじさんもいる。シロとクロとあの男の子も、眠りながら浮かんでいる。目をこらすとはるか向こうに神林さんも、ちずも、静かに夜空に横たわっている。
 星の合間の私たちは、おたがいまだであう前の、親子でもなくきょうだいでもなく、知りあいですらない、ただ切り離された一つのかたまりとして、それぞれの存在なんかまったく知らないもの同士として、ぷかりぷかり夜空に浮かんでいるような気がした。

(角田光代『キッドナップ・ツアー』新潮文庫 p.161)